お香を炊いて部屋の空気がまだ冷たさを残している早朝。
いつものお香に火をつける。
先端が赤く灯り、ゆっくりと白い煙が立ちのぼる。
その瞬間、部屋の時間が少しだけゆるむ気がした。
1Kの小さな部屋でも、香りが広がると景色が変わる。
静けさが一枚、薄く重なるような感覚。
生活の余白は、物を減らすことだけではなく、こうした“香りの隙間”にも宿るのだと思う。
煙の揺れを眺めていると、心の中のざわつきも同じようにほどけていく。
仕事で抱えた感情や、昨日の疲れが、香りに溶けていくような気がする。
福祉の現場で人の生活に触れる日々は、どうしても心の温度が揺れる。
だからこそ、こうした静かな時間が必要なのかもしれない。
お香の香りは、強く主張しない。
淡く、すぐに消えてしまう。
けれど、その儚さがいい。
派手ではないのに、芯がある。
そんな雰囲気が、この香りには似合う。
煙が細く途切れたら、朝の支度を始める。
香りはもうほとんど残っていない。
でも、部屋の空気は少しだけ澄んでいる。
今日も静かに整えて、生きていく。


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